weblio辞書によれば,「明らか」とは「だれにもわかるようにはっきりしているさま」あるいは「疑いをはさむ余地のないさま」ということだ.
しかし,数学で使われる「明らか」は明らかにこの意味では使われていない.数学的主張が,だれにもわかるようにはっきりしていたり,疑いをはさむ余地のなかったりするはずがない.現に僕は「明らか」と省略されていた証明を理解するのに何週間もかかったことがある.「clear」とか「obvious」などと書かれてる論文に何度辛酸を嘗めたかわからない.
数学者の使う「明らか」には,彼らの「説明するのが面倒くさい」という気持ちが込められている.
大学のゼミの先生がよく仰っていたのは,本当に明らかならそんな言葉は使わず説明してくれればいいのに,だった.それをしない理由は一つ,面倒くさいからだ.
面倒くささの背景は色々ある.説明すると冗長になるから面倒くさい.議論の主題から外れるから面倒くさい.実は高度な内容だけど,だからこそ面倒くさい.
数学者はプロだから,自分でもよく分かってないことを「明らか」という言葉で取り繕うなんてことはしない.ただし,「(読者の)あなた方に明らかかどうかは保証しませんよ」というニュアンスを含んでいることには注意されたい.
きっとこうしてる間にも様々な理由で「明らか」が消費され続けている.そして,もしそんな場面にあなたが出くわしたなら,「ああ,この人は面倒くさかったんだな」と気持ちを汲んでほしい.そして,自分で証明や説明をつけてみてほしい.
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